「令和7年度 下水道事業研修会」を開催しました。

自治体の下水道事業に対する正確な理解と認識を持ち、発注者からの様々なご要望により適切にお応えするために、中部支部では中部地区9県を対象に『下水道事業研修会』を開催しております。
今年度は「新潟県」「富山県」「石川県」「福井県」「長野県」の5県にご協力をいただき、標記研修会を以下プログラムにて実施いたしました。

■第一部:各県の下水道事業の現状と今後の見通し
各県ご発表者様
①新潟県土木部都市局下水道課 富永 尚秀 課長補佐
②富山県土木部都市計画課下水道係 東 貴史 副主幹、西村 誠人 副係長
③石川県土木部都市計画課生活排水対策室 松生 智 課長補佐
④福井県土木部河川課上下水道室 石田 勝一 室長、森下 和晃 主任
⑤長野県環境部水道・生活排水課水道・生活排水係 関 渉 担当係長

■第二部:意見交換会(テーマ:より良い成果を目指すために)
①各県からのコンサルタントに対する要望
②水コン協からの「要望と提案」を含めた回答

開会に際して、庄村 昌明 中部支部長より挨拶をいただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※5県を代表して、新潟県土木部都市局下水道課 安原 峡 課長より挨拶をいただきました。

 

■各県の下水道事業の現状と今後の見通し
新潟県土木部都市局下水道課 富永 尚秀 課長補佐
新潟県の下水道事業概要として、新潟県汚水処理整備構想、老朽化対策、浸水対策、地震対策について、また、課題と取り組みとして、新潟県下水道事業経営戦略の改定、広域化・共同化の推進、資源・エネルギーの利活用、ウォーターPPPの導入についてお話をいただきました。

富山県土木部都市計画課下水道係 東 貴史 副主幹、西村 誠人 副係長
富山県の下水道事業の現状として、県内下水道事業の実施状況、下水道の普及状況について、特色ある富山の下水道として、神通川左岸流域下水道、小矢部川流域下水道(小水力発電、パークゴルフ場等)、溶融スラグの有効利用についてお話をいただくとともに、富山県汚水処理広域化・共同化計画についてご紹介をいただきました。

石川県土木部都市計画課生活排水対策室 松生 智 課長補佐
石川県の下⽔道事業の現状と今後の見通しとして、下⽔道事業実施状況、下⽔道事業の普及状況、流域下⽔道事業、生活排⽔処理構想、下⽔道広域化・共同化計画、メタン活用石川モデル、令和6年能登半島地震についてお話をいただきました。

福井県土木部河川課上下水道室 石田 勝一 室長、森下 和晃 主任
福井県の下水道事業の現状と今後の見通しとして、未普及対策、老朽化対策、地震対策、雨水対策、広域化・共同化計画の推進、資源有効利用、九頭竜川流域下水道におけるエネルギー利用、上下水道室新設による水行政の効率化、ウォーターPPP導入検討状況をはじめとした官民連携事業の取り組み状況等についてお話をいただきました。

長野県環境部水道・生活排水課水道・生活排水係 関 渉 担当係長
長野県の下水道事業の現状と今後の見通しとして、長野県の流域下水道の概要、長野県の整備状況等、浸水対策、老朽化対策、デジタル化、地震対策、下水汚泥資源の肥料利用(流域下水道における下水汚泥肥料の効果検証試験及び肥料登録について等)、耐水化計画、広域化・共同化(⻑野県下水道公社による市町村の⽀援等)についてお話をいただくとともに、令和6年能登半島地震の応援業務についてご紹介をいただきました。

■意見交換会(テーマ:より良い成果を目指すために)
①水コン協からの「要望と提案」に対する意見
【持続可能な社会に向けたコンサルタントの積極的な活用】
・八潮市の道路陥没を受けた国による専門委員会の提言を受けて、コンサルタントの知見や技術力により、再構築に関する計画・設計手法を早期に確立する必要性があると考えます。
・ウォーターPPP導入手法を検討する人員や導入するノウハウが不足しているため、先行事例の情報共有や導入支援業務の提案を要望したいと考えます。
・流域下水道は多くの施設が更新時期を迎えています。ストックマネジメント計画を策定し計画的な更新に努めているが、更なる経済的かつ効率的な点検・調査、更新方法を提案いただきたいと考えます。
・市町の台帳には電子化化されていないものが多い状況です。地震災害復旧により管渠が順次整備されていくので、竣工図のデータ化等、協力いただきたいと考えます。
・流域下水道では、メタンガス発電や太陽光発電により、温室効果ガス排出削減に取り組んでいますが、更なる脱炭素化の取組等について、先進事例があれば提案いただきたいと考えます。
・ウォーターPPP、上下水道市s手うの耐震化、老朽化対策等は、専門的知識を有するコンサルタントの協力が不可欠です。円滑な事業推進のため、受注体制の確保を要請します。
・コンサルタントを活用した、上下水道の基盤強化に関する計画策定等の効果についての事例紹介やセミナーの実施などを通し、中小自治体においても取り組みのきっかけとなることを期待します。
・3Dモデルを、設計〜施⼯〜維持管理と横断的に活用することにより情報共有の円滑化・効率化を図ることを期待します。

【働き方改革及び災害時対応に向けた環境整備】
・災害対応業務は特に人的負担が大きく、時間、労力、経費などの負担軽減が必要と考えられることから、発注者側としても災害対応業務を優先とし、他の業務の履行期限は柔軟に対応しているところではありますが、今後とも災害査定における簡素化などを国に求めていきます。
・能登半島地震では、ほとんどの市町が随意契約により委託業務を発注してます。業務が集中する場合がありますが、復興に遅れが生じないようお願いしたいと考えます。
・本県においては、業務委託の複数年契約の事例は稀です。当初予算内示後の早期発注や補正予算を活用して繰越での業務発注により、履行期間の確保や業務発注の平準化を推進しています。
・予算の早期執行、適正な業務履行期間の設定、発注時期や業務完了時期の平準化に取り組んでおり、引き続き事業執行へのご理解協力をお願いしたいところです。
・ウイークリースタンスについては、特記仕様書に明記しており、全ての業務で実施することが重要だと考えています。受注者におかれては、業務着手前に工程管理方法について綿密に検討のうえ、作業間の関連や業務の進捗状況等を常に把握するよう努めてほしいと考えます。
・業務をなるべくスムーズに進められるよう、オンライン会議やグループチャット等での対応も積極的に受け入れたいと考えているので、協議していただきたいと考えます。
・本県においては、業務環境の改善やテレワークの推進を目的として、昨年度から土木職員全員にタブレットを配備し、工事現場との遠隔臨場やオンライン会議への活用も推進しています。
・会議参加者の移動時間や移動費用の削減が図れること、リモートワーク、在宅勤務など多様な勤務形態を可能にし、従業員のワークライフバランスの向上などのメリットがあり、オンライン形式による会議を活用することは好ましいと考えます。(ただし、会議資料については当日の共有と共に、データの事前提供は必須と考えます)。

【適正な予定価格の設定と技術力によるコンサルタントの選定】
・近年のコンサルタント業界の技術者不足等に伴う発注業務の不調・不落の増加傾向を踏まえて、コンサルタント業界においても下水道技術者の確保・育成、業務の省力化のためのAI技術の開発・活用などを検討していただきたいと考えます。
・適正な予定価格の設定及びわかりやすい設計書作成ができるよう、協会各社からのご意見も伺いながら調整を図りたいと考えます。
・本県では、指名競争入札制度による業務発注を実施し(設計業務の一部は、(指名)総合評価落札方式)、設計価格を事前公表、予定価格、最低制限価格は事後公表としています。また、低入札対策として、最低制限価格を設定し、それ以下での入札は失格としています。

②コンサルタントに対する要望等
1)コンサルタントの技術力維持・向上に向けた希望
・本県においては、近年、受注者側の技術者不足が深刻化し、業務発注において、入札不調や指名コンサルの入札辞退といった事例が発生しています。上下水道事業の継続的な推進には、老朽化・地震対策を担う技術者の確保が不可欠なことから、技術者の育成・確保に積極的に取り組んでいただきますよう要望します。
・これからも様々な取組みにより、若い世代へ建設業界の魅力を伝え、人材の確保と育成に取り組んでいければよいと考えます。

2)国土強靭化のための加速化対策事業への期待
・下水道DXの推進や新技術の活用は、本県でも積極的に行いたいと考えており、また提案をお願いしたいところです。(特に、常時高水位であったり管径Φ800mm以下の管渠等で直接目視が難しい箇所等は、特殊なカメラやドローンなどの調査が一般的となるよう、事例の増加を期待します。)
・埼玉県八潮市の道路陥没事故、全国特別重点調査をきっかけに、今後、流量の多い供用中の管渠についても、点検や更生工事等を検討していく機会が増えることが想定されるため、維持管理を含めた関係団体とも連携し、現場状況や安全対策を踏まえた、実施可能かつ効果的な対策についての技術的提案や助言、マニュアルの作成などをお願いしたいと考えます。また、これらについては、DXの推進、ChatGTP 等のAI 技術の活用が必要不可欠であるため積極的な提案についてお願いしたいと考えます。

3)官民協働、官民連携(PPP)とPFIに向けた取組
・小規模の自治体ほど下水道事業の経営環境は厳しく、官民連携の検討が求められているものの、技術職員の不足など十分に対応できない状況です。大都市とは状況が異なる地域特有の課題を抱える自治体に対し、導入事例の共有や検討する場の提供などが必要と考えています。さらに小規模自治体で官民連携を導入する場合には、実績のある大手企業ではなく、地域に密着した中小企業が適している場合もあります。しかしこのような企業が単独で業務マネジメントを行うことは難しいと考えられ、JVやSPCへのコンサルタントがその役割を担うことも有効と考えます。
・ウォーターPPPの導入にあたっては、公社の位置付けの整理が必要であり、また課題と考えています。水コン協で把握している全国事例等も踏まえ、よい対応案等があれば、ご意見を伺いたいと考えます。

4)大規模災害時対応におけるコンサルタントの役割
・災害対応は特に経験が活かされる業務ですが、経験者の退職は不可避であるため、ノウハウの蓄積や技術の継承が重要と考えます。これは国や自治体でも同様であるため、官民における協力・連携・役割分担が一層重要であると思います。国の第1次国土強靭化実施中期計画では「AIやドローン、衛星等の革新的なデジタル技術は、国土強靭化の取り組みを飛躍的に進化させる可能性を秘めている」とされています。災害対応においても、これらの技術による業務の省力化・高度化が望まれるため、コンサルタント業界には技術開発を期待します。
・いまだに令和6年能登半島地震の災害復旧について、工事に入る前の調査、設計、査定後の変更手続きが続いている被災市も多い状況です。また、工事着手後でも、現場状況による変更(地中で想定困難等)なども多く発生しており、今後、災害復旧工事が本格化すると、早急な対応が必要な状況も増え、さらなる混乱が予想されます。引き続き、調査や資料作成のご協力、並びに専門家の目線でのご助言等をお願いします。
・査定に向けた設計段階の協定締結を進めたいと考えます。

5)設計成果に対する期待
・今後、ウォーターPPPの普及が進んだ場合、設計・計画業務も長期契約に含まれるため、業務仕様にとらわれない質の高い技術提案が可能となります。この他、社会インフラの安全性向上、脱炭素化など、社会的要請はますます高まっていくと思われます。コンサルタントが持つ豊富な実績や幅広い知見を活用し、より経済的で、投資効果の高いインフラの構築ができるよう期待します。

水コン協からもこれらの「要望と提案」に対する回答を行いました。

最後に、閉会にあたり、篠永典之 技術・研修委員長より挨拶をいただきました。

以上、報告です。